人は、見ようとしたものしか見えない。それは力にも、落とし穴にもなる。

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欲しいと思った車が、街で急に目に入るようになった経験はありませんか。

その車が、突然増えたわけではありません。きっと、以前から同じ数だけ走っていました。でも「気になる」と感じた瞬間から、見えるものが変わった。

これは偶然ではありません。人は、自分が重要だと決めたものにしか、注意を向けられない。脳がそういう仕組みになっているからです。そして、これは経営の現場でも、全く同じことが起きていると感じています。

一つに集中することが生む力

目指すものや大切にしていることが明確になると、それに関係する必要な情報や人や機会に、自然と出会うようになります。そして、迷いが減り、判断が早くなる。「これは今やることではない」と、落ち着いて選べるようになる。

以前、1年間伴走支援をした経営者の方が、支援終了後の約1年で、当初「5年後に達成できれば」と話していた目標を達成されました。何をしたか伺ったところ、「理念とブランド戦略を印刷して、ブレそうになるたびに見直しました」とおっしゃっていました。

理念が本当の言葉になっていたからブレがなくなり、余計なものが入らなかった。

探し物をしていて、同じ場所で見つかった経験はないでしょうか。「ない、ない、どこにあるんだ」と探していた時には見つからなかったのに、「絶対このあたりにあるはず」と思って探したら、あった。さっきここ探したよね、と思いながら。

意識の向け方が変わっただけで、見えるものが変わった。結果は最初からそこにあったんです。

この経営者の方に起きたことは、まさにこれだったと思っています。フロー状態と呼んでもいいかもしれません。雑念がなくなり、やるべきことだけが見えている状態。もともとそこにあった結果に、真っ直ぐ到達できた。

同じ仕組みが生む落とし穴

しかし、現場で長く経営者の方と向き合っていると、同じ仕組みが逆に働く場面も、繰り返し目にしてきました。

一点だけを見続けると、視野が狭くなります。新しい可能性、別の道、周りからのヒント。そういったものが、だんだん見えなくなっていく。気づかないうちに、思い込みが強くなっていく。

以前、ある住宅メーカーの支援をしていた時のことです。社長は「うちの強みは建材だ。他とは違う」と信じていました。一方、社員の方たちは「うちの強みはライフスタイルに寄り添ったデザインだ」と思っていた。それぞれがその思い込みから動いていたので、お互いにすれ違っていることすら、気づいていなかった。

これは、それぞれが違う一点だけを見ていたために起きたことです。個人の中で視野が狭くなるだけでなく、組織の中でそれぞれが違うものを見ていると、同じ方向に力が向かわなくなる。会社の方向性が分散して、せっかくの良いものが伝わらなくなる。事業成長につながりづらくなる。

この経験は、私が『組織の中で、全員が同じものを見て、同じ方向に向かえる状態をつくること』の大切さを確信した瞬間の一つでした。それがブランディングの本質だと、私は思っています。

「うまくいっていないのに、同じことを繰り返している。」現場でよく出会うこの状態は、多くの場合ここから来ています。それぞれが集中しているつもりが、視野が狭くなっている。あるいは、それぞれが大切だと思う、それぞれ違う一点を見ている、という状態です。

支援の現場から見えてきたこと

では、どうすればいいのか。

現場での経験から言うと、この二つの状態を意図的に行き来することが、目標達成を早めるポイントだと感じています。一点に集中する時間と、少し引いて周りを見渡す時間を、意識的に分けること。

「選択と集中」という言葉があります。経営資源を何に投下するかを決め、やらないことを明確にすることで、限られた力を最大化する考え方です。

その前段階に、もう一つ大切なことがあると感じています。何をするかを選ぶ前に、何を見るかが決まっていなければならない。意識の向け方が定まっていなければ、「選択と集中」の「選択」そのものが、ズレてしまう。

理念が本当の言葉になっていれば、何に集中すべきかが自然と見えてくる。「選択と集中」は、その後に初めて力を発揮すると思うんです。

実際の経営の現場では、それがPDCAという形で機能しています。動きながら確認し、確認しながら修正する。この繰り返しが、一点に集中することと、新しい視点を手に入れることを交互に生み出します。そしてその二つが統合されることで、事業は少しずつ前に進んでいく。

ただし、このサイクルが正しく回るのは、その前段階にある戦略が地に足のついたものであるときだけ。そして戦略が地に足のついたものになるのは、理念が本当のことを言葉にできているときだけだと感じています。

どれだけ丁寧にPDCAを回しても、戦略がズレていれば、間違った方向に向かって一生懸命走り続けることになります。そして戦略がズレる根本の原因は、多くの場合、理念が「本当に感じていること」ではなく「こう言った方がいい」と思って作られた言葉になっていることではないかと感じています。

あなたは今、何に注意を向けていますか。

一点に集中しているつもりが、視野を狭めているだけになっていませんか。PDCAを回しているつもりが、ズレた戦略を一生懸命実行しているだけになっていませんか。

その問いに答えるための出発点は、いつも同じ場所にあります。

自分が本当に感じていること、本当に信じていることが、言葉になっているかどうか。



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